オランダへの移住を考える際、お子様の教育は最も重要な検討事項の一つです。日本とオランダの教育システムには大きな違いがあり、それぞれに特徴があります。20年以上オランダで子育てをしてきた経験から、両国の教育システムの違いを様々な側面から比較してご紹介します。
教育制度の基本構造
日本の教育制度
- • 小学校:6年(6-12歳)
- • 中学校:3年(12-15歳)
- • 高等学校:3年(15-18歳)
- • 大学:4年(18-22歳)
- • 義務教育:小・中学校の9年間
オランダの教育制度
- • 基礎学校:8年(4-12歳)
- • 中等教育:4-6年(12-16/18歳)
- • 高等教育:3-6年
- • 義務教育:5-18歳
- • 12歳で進路が分かれる
最大の違い:早期進路分け
オランダの教育システムの最大の特徴は、12歳の時点で生徒の能力や適性に応じて進路が分かれることです。 基礎学校の最終学年で全国統一テスト(Cito-toets)を受け、その結果と教師の推薦により、以下の3つのレベルに分かれます:
- VMBO(4年):実践的な職業教育
- HAVO(5年):中等一般教育
- VWO(6年):大学進学準備教育
教育方針と学習スタイル
日本:集団主義と均一性
- • クラス全体で同じペースで学習
- • 暗記重視の学習方法
- • 規律と礼儀を重視
- • 部活動などの課外活動が盛ん
- • 受験競争が激しい
オランダ:個人主義と自主性
- • 個人の能力に応じた学習ペース
- • 批判的思考と議論を重視
- • 自主性と責任感を育てる
- • プロジェクトベースの学習
- • ワークライフバランスを重視
授業スタイルの違い
日本では先生が前に立って講義をする形式が主流ですが、オランダでは円形に座ってディスカッションをすることも多く、 生徒が積極的に意見を述べることが奨励されます。「正解」を覚えるのではなく、「なぜそう思うか」を説明する能力が重視されます。
学費と教育費用
日本の教育費用
- • 公立小中学校:基本無料(給食費等は実費)
- • 公立高校:年間約12万円
- • 私立学校:年間50-200万円
- • 塾・習い事:月2-5万円が一般的
- • 大学:国立約54万円/年、私立約100万円以上/年
オランダの教育費用
- • 公立学校:18歳まで完全無料
- • 教科書:無料貸与
- • 大学:EU市民は年間約€2,300
- • 課外活動:月€20-50程度
- • 学童保育(BSO):収入に応じて補助あり
重要:オランダでは公立・私立の区別なく政府から同じ補助金が出るため、 多くの私立学校も無料です。宗教系の学校も含め、ほとんどの学校が無料で通えます。
学校生活の違い
時間割と学校の一日
日本の学校
- • 登校:8:00-8:30
- • 授業:45-50分 × 6時限
- • 給食:全員で教室で食べる
- • 掃除:生徒が毎日行う
- • 下校:15:30-16:00(部活なし)
- • 部活動:18:00-19:00まで
オランダの学校
- • 登校:8:30
- • 午前授業:8:30-12:00
- • 昼食:家に帰るか持参のサンドイッチ
- • 午後授業:13:00-15:00
- • 水曜日:12:00で終了
- • 放課後:自由時間(習い事は別途)
宿題と評価
日本
小学校低学年から宿題があり、学年が上がるにつれて量が増加。 テストの点数重視で、5段階評価や10段階評価で成績がつけられます。
オランダ
基礎学校では宿題はほとんどなし。中等教育から徐々に増加。 プロセスを重視し、個人の成長を評価。1-10の評価システムを使用。
親の学校への関わり方
日本:PTA活動と学校行事
日本では、PTAの役員や委員会活動、運動会や文化祭の準備など、親の参加が期待される場面が多くあります。 参観日や保護者会も頻繁に開催されます。
- 学期ごとの保護者会
- PTA役員の輪番制
- 行事の手伝い(必須の場合も)
- 登下校の見守り当番
オランダ:自主的な参加
オランダでは、親の学校参加は基本的に自主的です。年に数回の個人面談があり、 子どもの成長について教師と話し合います。ボランティアでの参加は歓迎されますが、強制ではありません。
- 年2-3回の個人面談(10分間)
- ボランティアでの読み聞かせ
- 遠足の付き添い(希望者)
- 保護者会(Ouderraad)への自主参加
移住する家族へのアドバイス
お子様の適応をサポートするために
1. 言語のサポート
オランダの学校はオランダ語で授業が行われます。国際学校という選択肢もありますが、 現地校に通う場合は、最初の1年は言語サポートクラスが用意されています。
2. 文化の違いを理解する
自己主張することが良しとされるオランダの文化に、日本人の子どもは最初戸惑うかもしれません。 でも、それは成長のチャンスでもあります。
3. 日本語教育の継続
アムステルダム、ロッテルダムには日本人学校があります。また、補習校で週末に日本語を学ぶこともできます。
4. 進路の柔軟性
12歳での進路分けに不安を感じるかもしれませんが、後から進路変更も可能です。 お子様の個性と能力に合った教育を受けられるのが利点です。
オランダの学校の選択肢
現地校
オランダ語で授業。完全無料。地域に溶け込みやすい。
国際学校
英語で授業。学費が高額。国際的な環境。
日本人学校
日本の教育課程。アムステルダムとロッテルダムのみ。
まとめ:どちらが良いというわけではない
日本とオランダの教育システムには、それぞれ長所と短所があります。日本の教育は基礎学力の定着と規律を重視し、 オランダの教育は個性と自主性を重視します。どちらが優れているというわけではなく、 お子様の性格や将来の目標によって、適した教育環境は異なります。
オランダの教育を経験することで、お子様は国際的な視野を広げ、自己表現力を身につけることができるでしょう。 一方で、日本の文化や言語を維持することも大切です。両方の良いところを取り入れながら、 お子様にとって最適な教育環境を作っていくことが重要です。

教育アドバイザーからのメッセージ
「私自身、3人の子どもをオランダで育てました。最初は戸惑いもありましたが、子どもたちは驚くほど早く適応し、 のびのびと成長しています。オランダの教育で育った子どもたちは、自分の意見をしっかり持ち、 他者を尊重することができるようになります。不安もあると思いますが、一緒に最適な教育環境を見つけていきましょう。」
- 面谷まりこ(教育・生活アドバイザー)